研究概要 |
当申請者のグループでは数年前からエナメル芽細胞の初代培養方法を無血清培地を用いて開発しつつ、その培養条件下における細胞の生理的特性や分化状態を研究している。これらの成果として、培養下においてエナメル芽細胞は、1.もっとも分裂活性が高い遊走段階、2.分裂活性が低く、遊走細胞が集合することで形成するクラスター形成段階、3.分裂停止し、エナメル基質産生を開始する背の高い細胞段階、という分化を示すことが判明している。本研究では、まず、培養エナメル芽細胞の分化段階を形態に頼らず判定できるようにするための分化マーカー探索を行う。分化マーカーは、既知の因子でモノクローナル抗体がすでに作製されているものを候補とし、vivoとvitroの両方で時期特異的に発現する分子を認識できる抗体を探索することにした。 そこで、1.上皮-間葉の相互作用に働くことが予想されるHGF,EGF KGFなどの因子およびそのレセプター、2.皮膚角化上皮で既によく知られているケラチンなどの分化マーカー、3.エナメル質形成および石灰化に働くと考えられているアメロジェニン、アルカリフォスファターゼなどを認識する抗体、計31種を候補とし、ラット新生仔の下顎を用いて新鮮凍結切片を作製し、スライドグラス上で固定後、免疫組織染色を行って観察した。また、生後7日齢ラットの切歯唇側からエナメル芽細胞を調整し、コラーゲンプレートに蒔きこみ、培養2日目、4日目、7日目で固定し免疫細胞染色に用いてin vitroでの観察を行った。その結果、HGFレセプター(c-Met)、ケラチン14(K14)、アメロジェニン(En3)をマーカーとした時、その陽性反応が形態からの分類と一致し、要求を満たす分化マーカーとして好適であることが判明した。 すなわち、1.遊走細胞は、c-Met(+),K14(-)、En3(-) 2.クラスター細胞は、c-Met(+),K14(+)、En3(-) 3.背の高い細胞は、c-Met(+),K14(+)、En3(+)と段階を追って陽性の細胞が現れた。この基準はvivoでの免疫染色の結果とも矛盾せず、これらマーカーの使用により、初代培養系で見られる3段階の細胞が、vivoにおける内エナメル上皮細胞、前エナメル芽細胞、エナメル芽細胞に相当することが判明した。本研究の主な成果は、第101回日本解剖学会全国学術集会と、Arch.Oral Biologyにて発表した。
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