これまでのパッチクランプ法及び細胞内カルシウム濃度変化の測定法による単離味細胞を用いた味覚の研究では、味受容膜に限局した味刺激を行うことは困難で、さらにこれらの方法では生理的条件下での味蕾間、あるいは同一味蕾内細胞間の味刺激に対する応答に差異があるか否かについて検討することは不可能であった。 そこで私は、味刺激を味受容膜に限局させ、より生体に近い反応を観察したところ、以下のような結果が得られた。 スナネズミの茸状乳頭の味蕾を用いて、まず異なる味蕾における3種(ショ糖・サッカリン・NaCl)の味刺激における細胞内カルシウム濃度変化の違いについて調べた。ショ糖では52%で、サッカリンでは33%で、塩化ナトリウムでは30%の味蕾で細胞内カルシウム濃度の上昇が観察された。 また各味質の刺激により起こる細胞内カルシウム濃度の変化を、同一味蕾内の部位で比較したところ、ある部分ではサッカリンのみに細胞内カルシウム濃度の上昇が観察され、それとは異なる部分ではサッカリンとショ糖の両者で細胞内カルシウム濃度の上昇が観察された。また他の味蕾では、ショ糖とNaClに応答した部位とNaClにのみ応答した部位が観察された。 これらの結果から、以下の可能性が示唆された。 1 ショ糖、サッカリン、NaClの順で高率に細胞内カルシウム濃度の上昇が観察され、各味蕾は同一味刺激に対する反応性が異なる。 2 同一味蕾内の個々の味蕾内細胞は各味刺激に対する反応性が異なる。 今後さらに本実験方法を用いて味受容膜と基底外側膜の溶液の条件を変えることにより味覚変換における様々なイオンチャネルやセカンドメッセンジャーの関与を調べる予定である。
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