研究概要 |
本研究は,生体における顎関節構成骨の形態を個体間で比較したり,同一個体の骨形態の経時的変化を定量的に分析するために,X線写真の計測等をパーソナルコンピュータレベルで自動計測化することを試み,顎関節症の発症メカニズムを考察することを目的とした。 対象は平成3年から6年の4年間に,本学附属病院へ顎機能異常症状を主訴として来院した患者のうち,正面頭部X線規格写真撮影,顎関節前頭面X線断層撮影およびオトガイ-頭頂方向撮影を行った者で,写真計測が困難なものを除いた女性約700名,男性約180名とした. 正面頭部X線規格写真上で両側のLo(Latero-orbitale)を結ぶ平面に垂直で鶏冠頸部Ncを通る直線を正中線とし,これよりオトガイ部Me(Menton)までの水平距離をオトガイ部の側方偏位量とし、左右の前下顎隆起の外下縁の点GA,AGを結ぶGA-AG平面Lo-Lo平面に対する傾斜角度を計測した.また,顎関節前頭面X線断層写真において,下顎頭の内外側極を通る直線から関節面までの垂直距離の最大値を下顎頭垂直径とした.さらに,オトガイ-頭頂方向撮影で観察される左右下顎頭の面積をイメージスキャナを用いてパーソナルコンピュータに取り込んだ画像上で解析用ソフト(NIH Image)により計測した. このオトガイ部の側方偏位量やGA-AG平面の傾斜角度と顎関節前頭面X線断層写真やオトガイ-頭頂方向撮影で観察される左右下顎頭の形態差を統計学的に比較検討することにより,顎関節症患者における顔面骨格の非対称性について考察を行った. オトガイ-頭頂方向撮影で観察される下顎頭面積や長軸傾斜角度の非対称性と下顎骨の偏位を示すオトガイ部の側方偏位量やGA-AG平面傾斜角度に関連性を認め,下顎頭の形態変化が下顎骨の偏位を引き起こす要因の一つであり,また逆に,この様な下顎骨の偏位により左右下顎頭の形態差の生じる可能性もあることが示唆された.
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