パノラマX線写真は、歯列や顎骨の総覧像が、短時間で容易に得られることから、歯やその支持組織、顎骨、上顎洞等の疾患のスクリーニングに広く用いられている。一方、臨床では、治療計画時や治療効果の判定時に、定性的にだけでなく定量的に現象を評価したい場合がある。すなわち、歯科矯正治療による歯の移動状況など、パノラマX線写真上での計測が必要であると思われる事象は多数ある。現在パノラマX線撮影装置は広く臨床に用いられており、このX線写真上での計測が、臨床上で可能となれば、種々の現象を客観的に評価でき、診断にも信頼度が増す。パノラマX線写真上での計測に関する研究は、国内、外を問わず極めて少ない。歯の長さ、ならびに下顎枝の高さに関する論文は散見されるが、計測の妥当性については賛否両論がある。本研究の目的は、パノラマX線写真上での計測の可否を検討、すなわち計測は不可能なのか、あるいは臨床レベルで容認できる計測値のオーダーがあるのかを明らかにすることにある。具体的な実験方法は以下のとおりである。まず歯学部附属病院に設置されているパノラマX線撮影装置のX線束の回転中心の軌跡を断層域を実験的に求め、すでに撮影済みの患者の頭部X線規格写真等をもとに、計測に適した実験用ファントムを試作する。適切な位置づけをした場合と、臨床上起こりやすい誤った位置づけをした場合を想定してパノラマX線撮影を行い、ファントムの実測値と各種の位置づけで撮影されたパノラマX線写真上での計測値から、部位別の拡大率やひずみ率を算出、すなわち当面の目標を下顎骨の非対称性の定量的評価におき、その計測値が拡大率やひずみ率でどの程度修飾されるかを検討し、計測が可能か否かを断定する。また可能な場合にはどの程度の範囲で信頼できるかを検討する。
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