STKM-1クローン(S4、R3)は、悪性度、トリプシン合成能ともにS4細胞の方がR3細胞よりも高い。これらのクローンを継代することなく同一のディッシュ内で無血清培地にて維持するとトリプシノーゲンmRNAの発現は上昇する。このことはディッシュに表面に蓄積した細胞外基質による作用の可能性が高い。そこでコンフルエントのS4およびR3細胞を無血清培地にて維持した後のフラスコ(細胞由来の細胞外基質でコートされている)を作成した。さらにFBS、マトリゲル、ラドシン(STKM-1が分泌する細胞接着分散因子)でそれぞれコートしたフラスコを作成した。これらのフラスコにR3細胞を播種して24時間後のmRNA発現を調べると、その発現量はFBS≒ラドシン≒マトリゲル<R3<S4の順であった。これらの結果は、癌細胞が分泌する細胞外基質がトリプシノーゲンmRNAを誘導したことを示しており、悪性度の高い細胞程誘導活性が高いことを示している。コートされている蛋白質を抽出してSDS-PAGEにより分析すると、非還元で分子量160-、140-、120-、110-kDaの高分子に4本のバンドが得られた。 トリプシノーゲンには、現在少なくとも3種類の遺伝子配列が報告されている。そこで、S4、R3細胞の発現しているトリプシノーゲンの分子種について検討した。RT-PCRにより増幅されたフラグメントを制限酵素(Pst1、Sac1)で切断した。その結果、S4細胞においては2型の発現が92%、1型が8%、R3細胞においては2型が62%1型が38%であり、S4細胞の方がトリプシノーゲン2が優位であったことを示している。トリプシノーゲン2は、Ca^<2+>存在下で自己活性化が促進されるが、Ca^<2+>の存在は、トリプシノーゲン1の自己活性化を阻害することからトリプシノーゲン2の分泌が癌細胞の浸潤に特に重要であることが示唆された。
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