近年、口唇、歯肉の血流調節はこれまで考えられてきた交感神経による血管収縮機構の他に顔面神経、舌咽神経由来の副交感神経による血管拡張機構が存在すること、すなわち、皮膚血管の拡張は専ら交感神経の緊張低下によるものであるが、頭頚部の皮膚および口腔粘膜血管の拡張には副交感神経が関与することが知られている。また、口腔領域の侵害刺激による感覚神経の興奮が、延髄レベルで舌咽神経に含まれる副交感神経線維に伝えられ、遠隔部位の口唇などで同側性に血管拡張反応が起こる反射機構(体性-副交感神経反射)が報告されている。しかしながら、歯髄の痛みが口腔の他の組織にどのような影響を及ぼすかについては殆ど報告が無い。そこで、本研究では、感覚神経の密度が高い歯髄を刺激することにより下唇、舌、頬粘膜、上下顎歯肉および口蓋粘膜などの口腔粘膜を対象とし、血流を指標として薬理学および電気生理学的手法をもちいて検討した。その結果、 1)上顎犬歯を電気刺激すると下唇、舌、頬粘膜および上下顎歯肉では同側に、口蓋粘膜においては両側に血管拡張反応が観察された。 2)それらの口腔粘膜の血管拡張反応は自律神経節遮断剤であるヘキサメソニウムの投与により抑制された。 3)実験を通して電気刺激による血圧の上昇はみられなかった。 以上の結果より、歯髄刺激による口腔粘膜の血管拡張反応は刺激部と血流測定部位がかけ離れており、自律神経節遮断剤であるヘキサメソニウムの投与により抑制されることから、それらの反応に副交感神経が関与することが示唆された。 今後、求遠心路など反射ルートについて詳細に検討し、さらに口蓋粘膜における両側性の反射性血管拡張反射についても検索したいと考えている。
|