歯周治療の最も基本的な処置法の一つであるスケーリング・ルートプレーニング後の露出歯根象牙質面に発症する齲蝕は、歯周炎の再発や歯髄疾患の原因となる可能性があり、発症機構の解明が急務とされている。本研究では、スケーリング・ルートプレーニングにより象牙質を露出させた歯根部試片をボランティアの口腔内に装着し、一定期間係留させ、その後順次摘出することで露出歯根象牙質面での齲蝕誘発の経時的モデルを作製した。摘出した試片を各種樹脂(Epoxy及びGMA)に包埋し薄切した後、各種口腔内細菌に対するウサギ特異抗体を用いた光顕的酵素抗体法染色およびプラーク細菌の菌体内多糖(糖質代謝)を検出するための電子染色(PA-TSC-SP法)を行い観察した結果、以下の所見が得られた。 1.実験開始時に平滑であった象牙質表面は実験期間が長いほど破壊され粗造になる傾向を示した。また実験開始2ヶ月後より象牙質表層の象牙細管の拡張が認められた。 2.象牙質表面にはプラークが形成され、実験開始1ヶ月後より既に象牙細管内への細菌侵入が認められた。また時間の経過と共にその侵入深度は増大する傾向を示した。 3.特定細菌を検出するための酵素抗体法染色によると、齲蝕表層および直下の象牙細管においてミュータンスレンサ球菌及びActinomycesが多数検出された。 4.PA-TSC-SP法染色によると、齲蝕表層の桿菌様細菌および象牙細管内の球状菌の菌体内多糖は、1ヶ月、2ヶ月目でその密度及び多糖を有する細菌数が増大したが、3ヶ月においては逆に減少する傾向が認められた。 以上の結果から、象牙質を露出させた歯根部試片を口腔内に係留することで象牙質齲蝕を誘発させることが可能となり、試片表層の象牙質を破壊した細菌がActinomycesあるいはミュータンスレンサ球菌であることが示唆された。
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