不可逆性歯髄炎では、多形核白血球(PMN)が多量に集積することにより歯髄組織が破壊されているのではないかと考え、in virtoでPMNを歯髄細胞に直接作用させたところ、PMN数および作用時間依存的に傷害歯髄細胞数が増大し、培養上清中のエラスターゼ濃度や細胞外基質のフィプロネクチン濃度が上昇することをこれまでに明らかにしてきた。今回、PMNの歯髄細胞傷害の機序をさらに明らかにするため、まず傷害因子と考えられているプロテアーゼおよび活性酵素について、それらのインヒビター(プロテアーゼインヒビター、スーパーオキサイドディスムターゼ)を加えたときの傷害抑制効果をクリスタルバイオレット染色法により検討したところ、プロテアーゼインヒビターでは傷害抑制がみられたが、スーパーオキサイドディスムターゼでは傷害抑制は認められなかった。さらに、PMNの歯髄細胞への接着の有無が細胞傷害に影響しているか否かについて検討したところ、非接着条件下の方が直接作用させた場合に比べ、傷害度は低かった。また、歯髄細胞傷害時におけるフィブロネクチンの変化をウエスタンブロット法にて検討したところ、非傷害細胞の接着上清中のフィブロネクチンは分子量約220KDの一本のバンドとして認められたのに対し、傷害細胞では訳100〜200kDの数本のバンドに分解されていた。以上の結果より、プロテアーゼなど過剰のPMN由来傷害因子の作用により細胞外基質が破壊され、歯髄細胞が剥離し傷害される可能性が示唆された。
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