歯周炎の特徴的な病理組織学的変化の一つに、多形核白血球の接合上皮直下への浸潤と、歯肉溝への滲出があげられる。近年、多形核白血球はLPS等による刺激で種々の炎症性サイトカインを産生することが明らかとなったが、これらが歯周組織の感染防御に働くか、組織破壊に働くかは様々な議論を醸し出している。そこで本研究では、歯周病患者末梢血多形核白血球のサイトカイン産生量と患者の重症度を比較することにより、多形核白血球から産生されるサイトカインの歯周疾患進行過程における役割を明らかにすることを目的とした。 本学に来院し、本研究への協力に十分な同意が得られた患者を、早期発症型歯周炎、成人性歯周炎患者の2群に分類した。初期治療開始前にこれらの患者からヘパリン存在下で採血を行い、多形核白血球を分離した。分離された多形核白血球を2種類の歯周病原性細菌Porphyromonas gingivalis、Actinobacillus actinomycetemcomitansから抽出したLPSで刺激し、18時間培養後、上清を回収した。培養上清中のIL-1β、IL-1ra濃度を、各サイトカイン測定用ELISAキットを用いて測定した結果、IL-1βは早期発症型歯周炎、成人性歯周炎患者から採取した多形核白血球よりも健常者から採取した多形核白血球からの産生量の方が多い傾向にあった。一方、IL-1raに関しては、患者群関に産生量の有意差は認められなかった。また、培養上清中の生物学的IL-1活性をマイトゲンで刺激したC3H/HeJマウス胸腺細胞に対する増殖誘導活性として検出したところ、IL-1βと同様の結果が得られた。 これらのことから、歯周組織で多形核白血球から産生されるIL-1βは歯周病原性細菌に対する防御反応に重要な役割を有することが示唆された。
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