頭部運動と顎機能との関連について、これまでに運動論的あるいは筋電図学的に検討を加えてきた。これらの研究から、顎機能が円滑に遂行されるための条件として頭部姿勢が的確にコントロールされる必要があることが明らかとなってきた。この研究は、顎口腔系の主要な機能運動の一つである咀嚼運動時の頭部運動パターンを解析し、咀嚼運動に同期した頭部姿勢変化の機能的意義を探ることを目的としている。平成8年度において、上顎切歯点を代表点とした頭部動揺軌跡と上顎に対する下顎運動軌跡を同時解析する手法を確立し、咀嚼運動時の頭部姿勢の微小変動の様相について解析を行った。その結果、咀嚼運動時には、上顎切歯点が下顎運動に同期して、開口時には上方へ、閉口時には下方へと下顎とは相反する方向へ運動することが認められた。さらに、下顎の側方移動に対応する上顎の側方移動が存在することが示された。また、この変動の大きさや方向は咀嚼する食品の性状によって影響を受けていることが認められた。すなわち、下顎運動に同期した周期性のある頭部姿勢の制御が行われていることが明らかになった。一方、顎機能異常者における下顎運動時の頭部姿勢の微小変動を観察した結果、正常者とは異なったパターンが認められたことから、下顎運動の異常は、頭部姿勢のコントロールにも影響を与えていることが示された。今後、頭頚部筋群の筋活動様相と頭部姿勢の変動について、さらに詳細な検討を加え、その機能的意義を明らかにして行く。
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