前年度までにFe-39.5Pt2元合金における高保磁力発現のメカニズムについて、高い結晶磁気異方性を持つL1_0型規則相のFePt規則相の規則化に伴う微細組織形成の観点から明らかにした。本年度はFe-39.5pt-0.75Nb3元合金においてさらに保磁力が向上するメカニズムについて検討を行った。3元合金でも溶体化処理から焼入れた状態で、数nmの大きさの規則ドメインが一面に現れ全体が既に規則化していた。しかし規則ドメインのサイズは2元合金の場合と比べ、若干小さい状態にも見えた。このときの保磁力は2元合金の場合の200kAm^<・1>よりかなり低い60kam^<・1>であった。3元合金では873Kで72ksの時効後、保磁力は300kAm^<・1>の値になり2元合金を上回る性能を得た。このときの微細組織はTEM観察の結果、基本的には2元合金と同じで数十nmの規則ドメインが形成されtweed contrastを生じていた。さらに詳しく調べるとサブミクロンの大きさの球状粒子が点在していた。EDX分析の結果主にNbの晶出粒子であり、さらにSiO_2のアモルファス相もNb粒子に隣接して存在する場合が見られた。またEDX分析ではNb粒子近傍のFePtマトリックス部からNbは検出されず、NbはFePtマトリックスにはほとんど固溶していないことが明らかになった。Nbの融点は非常に高く、合金の熔解中にNbは坩堝のアルミナやシリカと反応して球状粒子を形成するものと思われる。3元合金が2元合金と比較して保磁力が若干向上するのは、この球状粒子が磁壁のピンニングに寄与している可能性が考えられる。また溶体化処理後においては2元合金よりも3元合金の方が磁気特性は劣っていたが、Feの0.75%がNbに置換されているので、見かけ上のFeとPtの組成が変わったためではないかと考えられる。本研究によってFePt系磁石の保磁力を支配しているのは本質的にはFePt規則相のドメインサイズであることが明らかになった。そこで来年度以降、実用上問題となる鋳造条件や熱処理条件と微細組織との関係についてさらに詳しく検討を行っていく予定である。
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