本研究では象牙質歯面処理剤の組成を変えることによって象牙質に対するレジンの接着性改善を試みた。10%リン酸水溶液のエッチング液、試作したプライマー、トリブチルボランを重合開始剤とする接着剤を用いて牛歯象牙質とステンレス棒を接着し、引張り接着試験と破断面の観察を行った。 まずエッチング処理後に塗布するプライマーに金属塩化物を添加し、金属塩化物の種類と濃度が接着強さに及ぼす影響を調べた。塩化亜鉛、塩化すず、塩化アルミニウム、塩化セリウム、塩化コバルト、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化第二銅の8つは前回の報告までに検討済みであったので、今回は塩化マグネシウム、塩化ニッケル、過塩素酸鉄の3つを試した。その結果塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化第二銅、過塩素酸鉄の4つが同等の効果を示した。さらにエッチング処理をすることなくセルフエッチングプライマーに塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化第二銅あるいは過塩素酸鉄を添加した結果、過塩素酸鉄が最も効果的であり市販品を上回る接着強さが得られることが分かった。また金属塩化物以外にもメタクリル基を含む有機酸に鉄を反応させたものを2種類試作し、同様にプライマーとしての効果を検討したところ、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸鉄も2-メタクリロイルオキシエチルフタル酸鉄も接着性改善の効果は認められるものの、塩化物の場合ほどではなかった。 熱電対を用いたレジン重合のモデル実験からは一定の濃度範囲の過塩素酸鉄等の添加によってレジンの重合完了までに要する時間が短くなることが確認できた。これはプライマーとして塗布された金属イオンによって接着界面付近のレジンの重合が促進されることが、象牙質とレジンの接着強さの向上に寄与しているという仮説を裏付けるものと考えられる。
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