本研究においてわれわれは、一人の口腔癌患者の原発巣および転移巣から樹立したM0-T、M0-N1およびM0-N2細胞を用いその細胞生物学的特性について検討した。 その結果、これらの細胞株の細胞倍加時間は、M0-Tは、48.0時間、M0-N1は46.5時間およびM0-N2は36.0時間であった。ヌードマウスにおける造腫瘍性は、生着率はことなるものの、全ての細胞において腫瘍の形成を認め、形成された腫瘍はいずれも採取した組織と類似していた。次にこれらの細胞におけるEGFセレプターについてヨードラベルしたヒトEGFを用いた結合試験を行い、Scatchard解析をすることによりレセプター数を求めた。その結果、総レセプター数はそれぞれM0-Tは、5.70×10^5、M0-N1は1.01×10^6、M0-N2は7.30×10^5個であり、全ての細胞に高親和性および低親和性レセプターの存在が認められた。また、プローブとしてpE7isertを用いたサザンブロット法を行いEGFレセプター遺伝子の増幅の有無を検討したところ、明らかなEGFレセプター遺伝子の増幅は認められなかった。さらに、EGFレセプターのmRNAの発現についてノーザンブロット法により検討したところ、その発現の程度は細胞間において異なっていたがM0-N2が最も強く発現していた。次に、細胞接着分子の一つであるE-カドヘリンの発現についてイムノブッロト法にて検討したところ全ての細胞にその発現が認められた。また、細胞外マトリックス分解酵素であるゼラチナーゼの発現についてゼラチンを基質としたZymograpyを行ったところ全ての細胞に2種類のゼラチナーゼA、Bの発現を認めたがM0-N1において特にその発現が強く認められた。 以上のように、1人の患者から樹立された3種の細胞株の性状は異なっていることが推測され、口腔癌の細胞生物学的特性や浸潤・転移機構などの研究に有用であると考えられた。今後さらに、EGFレセプターとリガンドとの関係や浸潤・転移機構について研究を進めていきたいと考えている。
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