血小板由来成長因子(PDGF)による骨芽細胞の増殖促進機構には、PDGFレセプターのチロシンリン酸化が関与していることは既に報告した。PDGFはA鎖とB鎖のダイマー構造を持ち、PDGF-AA、AB、BBの3種類が存在する。一方PDGFレセプターにはα、βサブユニットが存在し、αサブユニットはA鎖もしくはB鎖と結合し、βサブユニットはB鎖のみと結合することが知られている。本研究では、骨芽細胞におけるPDGFレセプターの発現様式とチロシンリン酸化との関係を解明するため、ヒト顎骨由来の骨芽細胞を用い、PDGF-BBによるレセプターのチロシリン酸化が、α、βどちらのサブユニットで起こるのかを検討した。また骨芽細胞の細胞増殖と、PDGFレセプターのチロシリン酸化との関係を、チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステイン用いて調べた。 PDGF-BBで処理した骨芽細胞の細胞溶解液を、抗PDGFレセプターαおよびβサブユニット抗体で免疫沈降し、SDS-PAGEにて分離した蛋白質をニトロセルロース膜に転写後、抗ホスホチロシン抗体を用いてウェスタンブロットを行った。その結果、PDGF-BB処理によりレセプターのβサブユニットにのみ、チロシンリン酸化が認められた。さらに、チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステインを濃度を変えて添加したところ、10μg/mlのゲニステインにより、PDGFによりレセプターのチロシンリン酸化は軽度阻害されたが、骨芽細胞のDNA合成は、コントロールレベルまで抑制された。 以上の結果より、PDGFによる骨芽細胞の増殖は、レセプターのβサブユニットのチロシンリン酸化により惹起されることが示唆された。またチロシンキナーゼ阻害剤の作用が、細胞増殖とレセプターのチロシリン酸化とで差があることから、PDGFレセプター以外のチロシンキナーゼが、PDGFによる骨芽細胞の増殖に関与している可能性が示唆された。
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