今回の研究は、舌・口底・下顎骨の切除を受けることの多い口底癌切除後の構音機能について検討し、これからの手術法や術後のリハビリテーションに役立てることを目的に行った。 対象および方法:1985年4月より1997年12月までに、当科で手術を行い言語機能を評価することのできた口底扁平上皮癌16例について、100音節語音発語明瞭度検査、原発巣の切除範囲、/ka/構音時のエコー所見、/i/および/ata/構音のパントグラム所見について検討し、以下の結果を得た。 1)口底部の切除面積が大きい症例ほど、発語明瞭度が低くなっており負の相関関係が認められたが、下顎骨の切除面積は、発語明瞭度に影響は少なかった。 2)口底部のpull-through症例は、切除面積が少なくても発語明瞭度が低くなる傾向があった。 3)/ka/構音時のエコーによる舌運動所見では、舌最大運動量、舌運動左右差と発語句明瞭度との関連は認められなかったが、舌運動時間と発語明瞭度で負の相関関係が認められた。 4)/i/構音時のパラトグラム所見では、再建方法が同様であれば、口底部の切除面積が大きい症例ほど形態が非対称になり、接触面積の減少が認められた。 5)/ata/構音時の経時的変化におけるパラトグラム所見では、再建方法が同様であれば、口底部の切除面積が大きくなるにつれて、接触点数の最大接触時から開放までの時間が長かった。 以上の結果より、口底癌の術後構音機能は、構音時の舌の形態および運動時間に障害を及ぼすため、手術または、術後補綴に際しては、舌の少ない動きで構音ができるような固有口腔の狭小化を図るべきと考えられた。
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