研究概要 |
申請者は、これまでジエン鉄カルボニル錯体の鉄カルボニル部が非常に高い不斉誘起能を有する優れた不斉補助基となりうることを明らかにし、その応用として昆虫フェロモン、アルカロイドなど生理活性天然物の不斉合成を完成し、報告してきた。今回は、ジエン鉄カルボニル錯体をより実用的な不斉補助基とするため、光学活性なジエン鉄カルボニル錯体の優れた大量合成法の確立を目指した。 まず、2,4-ジエノカルボン酸に対し種々の光学活性なアルコール(8-phenylmenthol,exo-exo-2-(arylsulfonamido)-3-borneol)を縮合させて光学活性なエステル体を合成し、基質のジアステレオトピックなジエン面を識別させるジアステレオ選択的な錯体形成反応を検討した。しかし種々の鉄カルボニル化反応[(i)Fe_2(CO)_9,(ii)(cyclooctene)_2Fe(CO)_3など]を行ったが、ジアステレオ選択性を62%de以上にすることは出来なかった。 そこで次に、基質合成が容易でかつプロキラルな1,6-ヘキサジエナ-ル錯体を合成し、不斉な試薬を用いてプロキラルな二つのアルデヒドを識別させる触媒的不斉反応の検討を行った。その結果、還元反応では高い不斉収率は得られなかったが、触媒量のアミノアルコール存在下ジアルキル亜鉛を用いる触媒的不斉アルキル化反応により、理論上得られる四つの異性体の内ただ1つのアルキル付加体を高エナンチオ-高ジアステレオ選択的に得ることに成功した。すなわち一度に二つの不斉点を立体選択的に構築しながら、目的とする光学活性なジエン鉄カルボニル錯体を簡便合成する手法を確立した。
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