研究概要 |
申請者および山口(宮崎医大)は、DNAやRNAを塩基配列あるいは構造特異的に切断する分子種の検索過程で、2,3-ジヒドロピラジン類(1)が単純な骨格にもかかわらず核酸に対して強い切断活性を示すことを見いだした。興味深いことに1は、溶液中で放置するとより熱力学的に安定な三環性の二量体(2)、あるいはスピロ体(3)へと変化していくことが判明した。したがって、見いだされた核酸鎖に対する強い切断活性は、1の特異な反応挙動に起因していると考えられ、2および3の生成機構の詳細を明らかにすることは、1のDNA切断機構を推測する上で重要な示唆を与えると思われた。 そこで本研究では、1の誘導体を系統的に合成するとともに、それら化合物群の構造的な特徴から2および3の生成機構を推定した。得られた知見を以下に示す。 1.1の二量化では、i対称性を持つ三環性の化合物(2)以外には異性体は得られず、反応が極めて立体特異的に進行していた。このことから、二量化の機構は1がエナミン型に異性化した後、熱許容の[2π(C=C)+2π(C=N)+2σ(N-H)]型の六電子環状遷移状態を経由する、"分子間-分子内連続エン反応"であると推測した。さらに、分子軌道法(PM3)による遷移状態計算結果は、予想機構を支持するものであった。 2.三環性のスピロ体(3)は、2,3-ジヒドロピラジンと環の巻直しにより反応系中に存在するイミダゾリジンとのアルドール縮合により生成していると推定した。 今後、1の二量化反応とDNA切断機構との関連についても検討を重ねる予定である。
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