コルク組織の植物の二次代謝系への影響を検討するため、クララのほか、カンゾウ、イヌエンジュ、エンジュ、Casealpinia pulcherrima、ムラサキ、オウレン、アキカラマツ、バイカイカリソウ、スイカズラ、ウチワノキ、レンギョウ、シナレンギョウ、チョウセンレンギョウ、タバコの各培養細胞にコルク組織を添加し培養した結果、前者9種に関しては、二次代謝産物の生産は促進されたが、後者6種に関してはほとんど効果が認められなかった。生産が促進されたもののうちアルカロイド、フェノール配糖体など細胞内に蓄積されるものに関してはその増加量は1.5-2倍にとどまったが、細胞外に蓄積される低極性化合物の場合は、ほぼ3-5倍まで生産は促進された。この効果は、生産系が機能している場合にのみ認められ、de novoによる生産誘導は認められなかった。また、クララおよびカンゾウ培養細胞において促進される化合物のパターンを、酵母エキスによる生産促進現象と比較した結果、この効果はいわゆる″エリシター″によるストレス反応の結果誘導される場合とは異なることがわかった。さらに、コルク中の活性促進物質の検索を行うために、コルク組織を、強酸、強アルカリ、各種の加水分解酵素などにより処理することにより活性物質の可溶化を試みた結果、10N NaOH可溶性画分に二次代謝産物生産促進因子が存在することが明らかとなった。この画分には若干のフェノール成分、蛋白質の他、多糖類が存在した。また生産促進効果はコルク組織のみならず、ヒノキ材にも認められたが、脱分化したクララ培養細胞の細胞壁画分には認められなかったことから、植物組織の細胞間接着相もしくは後生的に形成される二次壁に活性本体が存在すると考えられる。以上のことから、植物における二次代謝の生産は、器官分化により形成される化合物によっても制御されていることが明らかとなった。
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