抗体は、外来抗原の侵襲をくり返しうけることにより、抗原に対してより強い親和力を獲得する。この抗体の親和力増大(affinity maturation)の機構を三次元構造に基づいて明らかにするため、抗体FabのX線結晶構造解析を行った。用いた抗体は、(4-hydroxy-3-nitrophenyl)acetyl(NP)に結合する二次免疫応答の抗体3B44である。 ポリエチレングリコールを沈殿剤として3B44Fabの結晶を調製し、ハプテンNPをソ-キングした後、X線回折強度データを収集した。分子置換法により初期モデルを得、結晶学的に精密化して、3B44 Fab-NP複合体の2.5Å分解能での構造を決定した。これを、既に明らかにしている一次免疫応答の抗NP抗体N1G9のFab構造と比較した。 3B44 FabはN1G9と同等のドメイン配置を示し、H鎖CDR3以外のCDRループの構造でも、ほぼ対応する空間配置を有している。3B44とN1G9の構造の違いは、抗原結合部位ポケットを構成する10残基のうち、33Hと97Hに見いだされた。97Hを含むH鎖CDR3は、主鎖の構造が異なっている。このため、3B44のPhe 97H側鎖は、N1G9のTyr 97Hとは異なる配置をとり、NPとの疎水的な相互作用を行っている。一方、33Hの変異では、側鎖の構造のみに違いが観察され、N1G9で見られたTrp 33HとNPの間の密すぎる接触は、3B44ではLeuへの置換により緩和されていた。一次応答抗体のTrp33Hから二次応答でのLeuへの変異は、ハプテン結合により適した抗原結合部位の構造を形成し、親和性を高めていると考えられる。
|