当研究室では抗体の細胞特異性およびポリリジンのDNA結合性と保護作用を利用した新しい遺伝子運搬体「抗体/DNA複合体(イムノジーン)」を独自に開発し、固体レベルでの扁平上皮癌の遺伝子治療法を目指している。それを効率よく作製しかつ臨床での有効性・安全性を高めるため、イムノジーンを人工抗体で作製することが本研究の目的である。改良の余地はあるが、この目的はほぼ達成できた。また人工抗体の大量産生・精製法も確立した。方法はまず抗EGFレセプター・モノクローナル抗体B4G7の遺伝子からPCR法を駆使して一本鎖抗体(scBH)遺伝子を作製した。大腸菌で発現させたscBHはB4G7抗体と競合することを確認した。これにポリリジンを化学結合させると、抗原結合能が消失した。そのため抗体自身にDNA結合性を持たせるためC末に8リジンを付加した一本鎖抗体(scHBFL)遺伝子を作製した。これは大腸菌では分泌不可能であったので、メタノール資化性酵母で大量産生させ精製した。電気泳動法によって、scHBFLはDNA結合能を有していることを確認した。つぎに扁平上皮癌細胞A431に対するレポーター遺伝子の導入効率を検討した。scHBFL単独では遺伝子導入は観察されなかったが。ポリリジンを併用した時scHBFL依存的に遺伝子導入が観察された。β-ガラクトシダーゼをレポーター遺伝子にしたときの活性染色を指標にすると最大導入効率は約0.1%であった。これは、当研究室で開発した抗体のFab断片を利用したイムノジーン法の約1/10の効率であるため、現在scHBFLのDNA結合性を高めるなど改良を行っている。さらに、安全性を高めるため人工抗体のヒト型化も並行して行っている。
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