線虫Caenorhabditis elegansは体長が約1mmの自活性土壌線虫で、発生や分化といった、ガレクチンが関わっているとされる生命現象の遺伝学的解析が詳細に進んでいる非常に優れたモデル生物である。C.elegansの32kDaガレクチンは脊椎動物のプロト型ガレクチンと相同なドメインが2回繰り返した構造をとっており、2価性の架橋蛋白質としての機能が予想される。32kDaガレクチンは成虫のクチクラ層に大量に発現しており、クチクラ層の形成に重要な役割を持ち、発生に伴って発現量と発現部位の調節が行われていることが示唆される。C.elegansの有用性を生かして生理機能を調べるため、32kDaガレクチンのゲノム構造の解析を行った。英国The Sanger Centreより供与を受けたYACのpolyteneフィルター(C.elegansのゲノム全体をカバーするようにYACのコロニーを格子状にドットしたもの)をPCRによって増幅したゲノム断片をプローブとして検索すると、Y61H10がポジティブとなった。YAC Y61H10のDNAを単離し、種々の制限酵素で切断後にサザンブロットを行うと、線虫個体より単離したゲノムDNAを用いたサザンブロットと同様のパターンが得られた。さらに、cDNA配列に特異的なプライマーを用いてY61H10のDNAを鋳型にPCRを行うと予想されるサイズの産物が得られた。以上の結果より、32kDaガレクチン遺伝子が第II染色体上に存在することが示された。ゲノムDNAを鋳型としたPCRと、コロニーハイブリダイゼーションによるゲノムスクリーニングの結果、32kDaガレクチン遺伝子には2箇所にイントロンが挿入されていることがわかった。2.4kbpのイントロン-1は翻訳領域の5'末端近くに存在し、動物ガレクチン遺伝子間で保存されているイントロン挿入部位に対応していた。一方、0.63kbpのイントロン-2はC末端側レクチンドメインの中央部に対応する部位に存在し、これまで知られているガレクチンにはない挿入部位であった。
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