ロドプシンは眼の桿細胞の外節内において、Diskと呼ばれる円盤状の細胞内小器官に存在し、光受容体として機能している。これまでに遺伝的に視力に異常をきたしているモデル動物としてRCSラットが研究されてきた。このラットは機能を失ったDiskが取り除かれる機構に異常が生じていることが明らかとなっている。一方、Disk上の糖タンパク質の約80%はロドプシンが占めている。つまり、RCSラットではロドプシン糖鎖に構造異常が生じており、その異常がDiskの代謝に影響を与えている可能性が考えられる。そこで本研究では、健常ラットとRCSラットロドプシンのアスパラギン結合型糖鎖構造を具体的に解明し、両者を比較検討した。 健常及びRCSラットのロドプシンから、アスパラギン結合型糖鎖を抽出した。抽出糖鎖の還元末端をアイソトープによって標識し、各種クロマトグラフィーにより分画した。分画した各糖鎖を、糖鎖構造特異的exoglycosidaseと、gel filtrationを用いて、その構造を決定した。その結果、中性糖鎖が90%以上を占めていることが明らかとなり、その存在量は(1)GlcNAc・Man_3・GlcNAa・GlcNAc_<OT>、(2)GlcNAc・Man_5・GlcNAa・GlcNAc_<OT>。(3)GlcNAc・Man_4・GlcNAc・GlcNAc_<OT>の順であった。この時、健常ラットでは糖鎖全体に対する存在比が(1)と(2)は78.3%と9.4%であるのに対してRCSラットでは58.4%と25.1%と(1)の比率が低くなっていた。アスパラギン結合型糖鎖の生合成過程で(2)から(3)を経て(1)に至ること、(3)に違いは見られなかったことから、RCSラットでは(2)から(3)に至るαマノマシダーゼの活性が下がっていると考えられた。そして、この存在比の違いがDiskの代謝に影響していると考えられた。
|