研究概要 |
B-43はウシ脳より分離精製されたこれまでに見出されていない新しいセリンプロテアーゼ阻害タンパク質であり、その部分アミノ酸配列はすでに明らかにされている。本研究ではさらにそのアミノ酸配列からコードされるDNAの配列を予測し、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりこの遺伝子のcDNA断片をウシの脳のmRNAからクローニングした。得られたcDNA断片をプローブとして、ウシ脳のcDNAライブラリーをスクリーニングし、その全長をコードすると思われるcDNAをクローニングした。塩基配列解析の結果、B-43 cDNAは、全長1338bpで378の予想アミノ酸をコードしていた。この配列から予想される分子量は42.6kDであり、このことはB-43が翻訳後の修飾をほとんど受けないことを示唆している。推定される反応部位のアミノ酸はP1,P1'がそれぞれアルギニン、システインであり、前後に複数個のメチオニンを有していた。この遺伝子から予測されるアミノ酸配列をもとにタンパク質データベースを検索した結果、ヒト胎盤およびマウス肝臓で報告されているPI-6およびSPI-3というセリンプロテアーゼインヒビターとそれぞれ76%、71%のホモロジーを有した。ウシの各種臓器のmRNAをノザンブロット法により解析した結果、B-43遺伝子は肝臓、筋肉に非常によく発現しており、脳にもまた部位特異的な発現がみられた。特に脳幹部においては非常に強い発現パターンを示した。さらに得られたcDNAから、赤血球ライセ-トを用いたin vitro 翻訳系で、活性を保持したタンパク質を合成した。代表的な種々のセリンプロテアーゼをこの in vitro で合成したB-43タンパク質とインキュベートしたところ、トロンビン、トリプシン、キモトリプシン、t-PA、カリクレイン、7S NGF など多くのセリンプロテアーゼが安定な複合体を形成し、脳内でこれらに類似したタンパクがB-43の標的となることを示唆した。
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