ヘパリンの有する多様な活性と複雑な構造との相関関係を明らかにするためには、構造既知のオリゴ糖や基質特異性がよく分かった酵素が必要である。これまで、ヘパリン/ヘパラン硫酸に由来する二糖、四糖についてはよく研究されていたので、今年度は六糖について解析した。ブタ小腸粘膜由来のヘパリンをヘパリナーゼで徹底消化し、ゲルろ過によって六糖画分を得た。この画分をポリアミンカラムを用いたHPLCによってさらに細かく分画した。各画分について、各種酵素による消化物のHPLC分析や500MHz ^1H NMR解析などによって構造を決定した。その結果、5種類の硫酸化六糖の構造を明らかにすることができた。これらの中には、一箇所の硫酸基のみが異なる構造もあり、生合成過程における前駆体と生成物の関係を表しているのかも知れない。また、これら5構造のうちの2構造は、珍しいグルコサミン3硫酸構造を含んでいた。この構造は、ヘパリン糖鎖の中でも抗血液凝固活性を発揮するアンチトロンビンIII結合部位に由来するものである。 現在、八糖画分の構造解析を進めるとともに、ヘパリン/ヘパラン硫酸とフォリスタチン、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)などの機能タンパク質との相互作用についても解析中である。フォリスタチンは、TGF-βファミリーに属する細胞増殖・分化因子の一つであるアクチビンの結合タンパク質で、その活性を制御することによって機能していると考えられている。これらのタンパク質因子は、アフリカツメガエルの胚発生において重要な機能を果たしていることが知られており、アフリカツメガエル胚よりヘパラン硫酸を精製してそれらとの相互作用を解析した。そして、両者の結合に必要な構造上の特徴も明らかにしており、この研究成果の一部は学会で報告した。
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