研究概要 |
当初の計画では、不活性化の起こり易さに影響を与える遺伝子座Xceの機能を探る目的で、マウス胚性腫瘍(EC)細胞や胚性幹(ES)細胞に別系統、別種由来のX染色体を導入して2倍性EC、ES細胞株を得た後、in vitro,vivoでの分子誘導による不活性化頻度のかたよりについて詳細な検討を試みる予定であった。しかし、予備実験的に行ったヒト不活性X染色体のマウス細胞への導入実験で意外な事実が明らかとなり、思いがけない方向へ研究は進みつつある。ヒト由来の染色体としては不活性X染色体のみを持つ雑種細胞CF150から微小核融合法でヒトX染色体をマウスEC細胞に導入したところその複製時期は晩期型から早期型へと顕著に変化し、その上にある遺伝子の発現も回復したことから再活性化が起こったと考えられた。しかし、通常は活性化にともない不活性型となるはずのXIST遺伝子が活性を持ち続けることが明らかになった。この遺伝子上流のメチル化状態はクローンによって様々でありマウスEC細胞はヒトXISTのメチル化状態を不完全にしか変えられないことが示された。さらに得られたクローンを細胞分化させることより再不活性化を試みた。予備実験の階段では低頻度ながらもマウス、ヒトX染色体の何れも不活性化し得るのではないかと思われたが、詳細な細胞学的観察によりその可能性は否定された。以上よりヒトX染色体上の不活性化中心はマウス細胞の中では完全に機能しないことが明らかになった。更にCF150細胞中でヒト不活性X染色体はSex chromatin bodyを形成せず高アセチル状態にあるという興味深い事実が明らかになった。この異常状態はCF150由来の不活性X染色体をヒト細胞に移入すると解消されることから、これらの現象にヒト特異的因子が関与する可能性が示された。ヒトーマウス間の種差を利用すればこの因子を同定できる可能性がある。
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