研究概要 |
昨年、我々はマウスにおいて既に報告されたPIT1遺伝子の異常(W261C変異)の劣性変異をホモに持つにも関わらず、正常マウスと大きさが変わらず甲状腺ホルモン値も正常範囲のマウスを4匹見出した。しかしながら、これらのマウスは本年度に入り、動物実験施設での感染事故のため死亡した。そこで、以降、ヨード濃縮障害のため甲状腺機能低下症を来した近親婚の両親を持つ症例の解析を行った。 ラットの甲状腺のI輸送蛋白(NIS)のcDNA構が1996年初めにDai,G.らにより報告されたので、この情報を元に正常のヒト甲状腺より抽出したRNAを用いてRACE法によりヒトNISのcDNAの単離を試みた。また、患者で以前、甲状腺種が生じて切除していたので、この組織よりRNAを抽出して、正常NIScDNAの蛋白コード領域を同定すると同時に、患者のcDNAをRT-PCR法により増幅、塩基配列を決定し比較した。すると、8割方の蛋白コード領域を決定した時点で一塩基置換を認めた。その後、他のグループが明らかにしたヒトNISのcDNAの全構造を用いて患者NISの残る蛋白コード領域を調べた結果、先程の一塩基置換による一アミノ酸置換のみが認められた。 この変異NIScDNAをHEK-293細胞で発現して^<123>I取込み能を見たところ、正常NIScDNAでは取込まれたが、変異NIScDNAでは全く取込まれなかった。また、ゲノムDNAの解析を行ったところ、変異が患児ではホモで両親ではヘテロであることが明らかとなった。以上のことよりNIS遺伝子の本変異がヨード濃縮障害の病因であることを明らかにした。
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