近年、Helicobacter pyloriの空胞化毒素の構造遺伝子であるvacA遺伝子にはシグナル(s)領域3タイプ、中間(m)領域2タイプの遺伝子型が存在し、s1やm1株はs2株やm2株と比較して毒素活性が高く、またs1株は潰瘍患者からより多く分離されることが報告されている(Atherton et al.1995)。今回、福岡大学病院で得られた菌株約170株ついて、vacA遺伝子のタイピングを行いin vitroの空胞化毒素活性と併せて胃十二指腸潰瘍患者群とNon ulcer dyspepsia(NUD)患者群との間で比較検討した。空胞化毒素活性は、培養3日目の液体培地を遠心して上清液を採取、その上清液を20倍に濃縮し、HeLa細胞を培養したwellに10mMmol/lの塩化アンモニウムを加えたfresh mediumと1:9の割合で混ぜ、24時間培養後、50%以上の細胞に空胞化を生じたものを空胞化毒素活性ありと判定した。その結果、vacA遺伝子のシグナル領域はほとんどの株がslaタイプであった。一方、中間領域では約半数がprimer領域の変異の為、既報のprimerを使用したPCRによるタイピングは不可能だった。タイピング可能な株の中では、m1株がm2株より多数を占めたが、潰瘍患者分離株とNUD患者分離株との間で両者の比率に有意差は認められなかった。また、空胞化毒素活性陽性率も両患者群分離株間で差がみられなかった。現在、別のprimerを用いたPCRおよびPCR-RFLP法による新しいvacA遺伝子型の分類と毒素活性価との関連を検討中である。
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