介護と職業は、女性の生活の中でさまざまなな位置づけを持っており、そのありさまは一様ではない。ただ全体の傾向としては、現在の日本の社会規範の中では老人の介護は女性によって第一義的な重要性を持った役割であり、職業は優先順位からいって介護よりも低いようであった。すなわち、ほとんどの場合、介護役割と職業役割の拮抗した状況においては、介護が優先される。 ここで大切なことは、職業が(1)金銭の獲得に関わる役割(2)家業の手伝いの場合には家の存続を請け負う一部の役割の2つを担うことから、女性の役割としてそれなりの正当性を有するということである。この意味で、職業は他の趣味活動・レクリエーション活動とは異なる位置づけにある。この事が職業に付与するメリットは、介護と職業をうまく両立させることができれば、職業を介護からの格好の気分転換・息抜きとすることが出来ることである。「仕事があるんだからそんなにおばあちゃんにばっかりかまけていられない」と言った介護者が、同じインタビュー内で「介護があるから仕事が中途半端になっていることは主人も理解してくれる」と、介護と職業が相互に、理想的にはゆかない状況の正当化のための材料として認知されているようであった。介護と職業の両立が破綻し、職業を辞めた1名の介護者が明らかな抑鬱状態に陥っていたことも、職業が介護者の精神衛生に肯定的な影響を与えていることを示唆していた。このような介護と職業の関係性は、その他の趣味活動・レクリエーション活動等、個人としての役割と介護との関係においては見られない様に思われた。 しかし、以上の考察は7例の日本女性介護者へのインタビューから導かれたものである。介護と職業の関係は、究極的にはその個人の自己実現がどのように行われているかによって異なるように思われ、本研究ではそこまでの検討を含めるには至らなかった。
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