本研究は、山岳少数民族に対して活動を続けている民間の経済援助機関との密接な協力関係を活かして、タイ国チェンマイ県におけるサモン郡のメオ族、カレン族、リス族、メ-リム郡のカレン族、パオ郡のリス族を対象として、児童青少年の身体発育・発達とその背景となる生活状況や教育状況の調査を行い、様々な健康上、生活上、教育上の諸問題を明らかにすることを目的とした。 1993〜1995年にかけて、タイ国北部山岳地区ならびにチェンマイ市に於いて、発育発達と教育、生活環境調査及びエイズ知識調査を行った結果以下の結論を得たが、さらに詳細な解析を現在継続中である。 1.耐久消費財の普及品目数及び各品目の普及率比較から、山岳少数民族のカレン、メオ、リスの3族は、平地民の漢、タイの2族とはかけ離れた貧困な生活に甘んじていることが明かになった。 2.一世帯あたり耐久消費財の保有額については、各民族とも2極分化がみられた。なお、平地民では富裕層が多いが、山岳少数民族では貧困層が多数を占めていた。 3.父親の職業では、平地民は商店主、役人、経営者・管理職など、農業より比較的収入が高く、多様な職業についているのに対し、山岳少数民族では農業関連に集中していた。母親の職業でも父親のそれと似た傾向にあるが、平地民では専業主婦や無職が全体の1/4に達するのに対し、山岳少数民族では無職は皆無か極めてわずかで女性も生産労働に参加していた。 4.エイズ知識に関する質問項目の中で、男女の性交渉、母子感染、注射器の共用、血液を媒介とすることなどは比較的理解されていた。一方、基本的な病理知識を理解するまでには至っておらず、善行、因果応報、精霊信仰などの伝統的価値観が今だに根強いことがわかった。
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