本研究では、途上国の極小企業研究が実務重視の立場から研究を技術化・専門分化していくなかで欠落させてきた広範な政治経済的枠組を再構築することを目的として、アジアやラテン・アメリカにおいて近年展開されている「柔軟な専門化」論のアフリカ経済に対する適用可能性を検討した。ここにいう「柔軟な専門化」論は、先進国での景気後退に始まる世界的工業再編成の中で、新生産技術に基づいて需要の細分化に柔軟に対応した多品種少量生産型の小企業が地域的に集積してきたことに注目して、こうした企業群の特徴を論じるものである。本研究では、「柔軟な専門化」論を展開してきた各分野について焦点をアフリカに絞り、とくにアングロ=サクソン系諸国における関連文献の収集を試みた。その結果、第1に、「柔軟な専門化」論が行われ始めて10年程が経過したにもかかわらず、アフリカ研究においてはこの概念を中心に据えた極小企業研究は依然として少数例に留まっていることがわかった。これは、アジアやラテン・アメリカとは異なり、アフリカ諸国が世界経済において周辺的立場にあることからもある程度予想されたことであった。第2に、アフリカでは小生産論(インフォーマル・セクター論)、極小企業論、在来技術論・適正技術論・中間技術論など、従来の問題関心の延長線上に位置づけられる研究の数が依然として多いこと、そして近年の経済危機がアフリカ社会に与える影響を検討する文献が多いことが明らかとなった。収集した文献のなかに、極小企業を社会全体とその変動に関連づけて理解する視点が含まれているかどうかを、引き続き検討していかなければならない。また、本年度に研究代表者が別途行ったケニア現地調査より、小企業の地域的集積を理解するには小企業がその場で再生産される歴史的過程の検討が不可欠であることが明らかだが、今後は単一時点での企業研究だけでなくこの点も含めて考察を進めて行く。
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