本研究では、近世近代移行期の港町の地域構造を、北海道の松前三港を中心に、地域間関係の視点から考察することを目的とした。具体的な方法としては、港町における商品の集出荷機能を流通システムから分析し、それに基づきながら近世港町を位置付けることを試みた。港町の商品の集出荷機能をみる前提として、各港における蝦夷地産商品、内地産商品の移出および移入について概観した。次に、三港における蝦夷地産商品と内地産商品の流通過程を概観した後に、それぞれの集荷機能と出荷機能について考察した。ここで、集荷と出荷を比較してみると、蝦夷地産商品の集荷に関わる様々な社会関係に比して、内地産商品のほとんどは北前船が松前地まで輸送しており、蝦夷地産商品の港への集荷が非常に重要であったことがわかった。このような三港における集出荷機能を明らかにすることは、三港をめぐる地域間関係を考察するうえで重要なポイントとなる。 次に、内地・蝦夷地・松前地の関係であるが、これを決定づけるのが松前三港であるともいえよう。つまり、三港にのみ松前藩によって沖の口番所が設置されていることから、前述したように、集出荷機能の港町への「集中」が起こるのである。また、政治的な領域の問題では、松前地と蝦夷地の支配や松前藩と幕府の関係といったものが重要になってくる。そして、内地と蝦夷地の関係を考えるうえでは、各商人(北前船商人、場所請負商人、問屋商人)の経済的対応を考えなくてはならない。 三港の機能を明らかにするうえでは、それぞれの後背地についても考えなければならない。今回の成果では、主に、江差の事例を取り上げたが、さらに時期的、地域的に区分しながら考えていく必要がある。特に重要な点は、港町に集中していた商品の集出荷機能が分散化する方向にあり、それを担っていたのが後背地であることである。 以上から、とりあえず現段階における分析を通して、近世港町の構造を地域間関係の視点からまとめると、(1)「場」の集中と(2)「場」の分散の両面を見ることができた。
|