本研究は、研究代表者の博士学位請求論文の論題である「近代日本の地域交通体系に関する研究」における重要な2つの論点の1つである「交通統制」に関わる問題の基本的な史・資料の収集を目的として行った。 まず、政府における政策関係の史・資料収集のため、国立公文書館や交通博物館を訪問してその所蔵状況を調査すると共に、必要なものについては複写した。また、個別地域に関する調査としては、当初交通調整の重点地域を中心に行うことを計画していたが、できるだけ広域的な資料を収集する目的で、青森県、富山県、愛知県、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、愛媛県、島根県、福岡県、宮崎県について調査を行った。これらの地域では、府県立図書館、文書館を訪問して地方史・資料の所蔵状況を調査すると共に、府・県史によって概要の把握に努めた。 そうした基礎的作業の結果「交通統制」が従来いわれてきたような「陸上交通事業調整法」によった国家権力による強制色の濃いものにとどまらず、地方自治体や警察によるかなり自主的なものも含まれていることが明らかになりつつある。こうした「交通統制」研究は、これまで政策史的研究がその主流であったが、本研究では各地域の実態を明らかにすると共に、交通機関の空間的配置を問題にする点で地理学的研究方法の独自性を出そうとした。そして、「交通統制」が地域交通体系をどのように変容させ、それが現代の交通機関の配置にどのように影響を与えているのかを明らかにすることが今後の課題となるが、この基礎的作業を踏まえたそうした分析は上記学位請求論文中等に反映させてゆきたい考えている。
|