数学的知識の大きな欠如やモニタリング機能の欠如などの影響を排除するために、大学で数学を学んだ大学院生を、中等教育レベルの数学に関するエキスパートと想定し、それらの被験者による実際の数学的問題解決の様子をVTRおよびATRに記録した。そこからプロトコルを作成し、解決者による問題場面の構造の変化という観点から解決過程を詳細に分析し、問題場面の構造に関して当該の活動がいかなる情報を提供し得たかを考察することで、その活動の解決に与える影響を調査した。 その結果として、「図をかく」、「より簡単な場合を考える」といった意識を契機として誘発される活動は確かに解決を促進するが、しかしそれは従来の数学的問題解決研究において言及されてきたのと多少異なる仕方によることが見出された。すなわち、従来言われてきたような解決自体の方針を与えるといった形というよりも、問題場面で重要視されるべき要素を示唆したり、あるいは解決途中で得られた特定の情報を用いる妥当性を与える等、問題場面の構造を構成していくことに関する情報を与えるといった形で解決を促進しうることが見出された。 またそうした活動が有効に活用されるためには、解決の適当な時点で問題場面全体についての探求を行うことや、新たな構成要素を多く生成するよりも、むしろ既存の要素に対する新たな意味づけを行うといったことと、併せて用いられる必要のことも見出された。
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