本研究における具体的な研究成果は、次の二点である。 第一に、研究計画書「研究の背景」において述べたが、私は、これまで「創造的音楽学習」および授業研究論に関する研究を行ってきた。そして、そこから、本研究の課題、すなわち、音楽教育研究における「民族誌的研究」(ethnographic research)の可能性といった課題を提出してきたが、本研究において、具体的に「創造的音楽学習」における授業研究の視点と方法として、「民族誌的研究」を思考モデルとして、「子ども理解」の手法開発を実践レベルにおいて試みた。「子ども理解」の手法開発において「民族誌的研究」の可能性を提出するとともに、そこから従来の音楽科授業研究における「子ども理解」論を問い直す視点を提出した。 第二に、実際に「参与観察」(participant observation)研究を行い、音楽教育研究における「民族誌的研究」の可能性として、音楽教育における「隠れたカリキュラム」(hidden curriculum)を具体的なレベルで検討した。具体的には、音楽教育における「学校知識」に注目して、「民族誌的研究」における「参与観察」を通してそれを抽出するとともに、それがどのような「隠れたカリキュラム」に規定されているのかを実証的に考察した。教師および子どもに技術主義的なイデオロギーが存在していることが、「隠れたカリキュラム」として今回明らかにされた。ここから、今後の研究課題として、「学校知識」および「隠れたカリキュラム」といった概念についての理論枠組みを検討すること、音楽教育研究においてそうした概念を認識することの有効性を明らかにすること、が提出された。
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