本研究の研究対象である「実用主義」歴史教育論とは、歴史教育は市民的資質育成のために行われるべきであると主張する理論であり、歴史はあくまでも歴史それ自身のために教授されるべきであると主張する「本質主義」歴史教育論と対立するものである。本研究では、「実用主義」歴史教育論を提唱する人物の中で、理論書とそれに基づいた教科書を著したC.F.ストロングを中心として、「実用主義」歴史教育論がどのように具体化されていたのかを解明することを目的とした。 この目的を達成するため、以下のような研究計画を立て実施した。 (1)ストロングが著した理論書『History in the Secondary School』とそれに準拠した教科書シリーズ『The New Secondary Histories』(全4巻)を収集した。 (2)収集した理論書を分析し、ここでは市民的資質が高度に技術化、文明化された現代社会で生活するため必要な素養ととらえられていることが明らかとなった。 (3)収集した教科書の全体構成及び各章の記述を分析し、この教科書は技術文明史を教えることによって市民的資質を育成することを意図したものであることが明らかとなった。 また、本研究の結果を受けて、以下のような課題が残された。 (1)イギリスでは地理教育においても市民的資質を育成すべきであるとの主張も存在する。歴史教育で育成する市民的資質と地理教育におけるそれとの違いを明らかにすることが望まれる。 (2)アメリカ合衆国や日本では、総合的な教科である社会科によって市民的資質を育成してきた。社会科において育成される市民的資質と歴史教育や地理教育で育成されるそれとの違いを明らかにすることが望まれる。
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