中国帰国者、日系ブラジル人、日系ペル-人の言語生活に関して、当人及び関係者に聞き取り調査・アンケート調査を行ってきたが、日本語の重要性は、労働・生活の場では話し言葉、就学時では読み書きに焦点化できる。また、いずれの日本語能力も、その修得・保持は、個人的なつきあいから行政の取り組みに至る周囲のサポートが決定的に重要であるとの認識を得た。ライフコースと日本語の関係をみると、就労者(及び配偶者)に関しては、必要最小限の話し言葉の能力獲得によって就労が果たされた以降は、いわば「制限された安定期」となるようである。つまり、職種の変更、居住地の移動、将来設計などに対して、言語能力は制約としてはたらく。一方、各個の生活を取り巻く経済的状況・文化的事情の方がそれらライフコースの選択に大きく関わっていくのである。これに対して、就学者にとっては、日本語はライフコースに大きな影響を及ぼすといえそうである。職種の選択、居住地の選択、将来設計などは、読み書きの能力獲得次第で大きな幅が出ている。読み書き能力が継続的な学習の所産であることを踏まえると、「不安な不安定期」を送っているとみることができる。また、中国帰国者と日系ブラジル人・日系ペル-人を比べてみると、現在前者は家族の呼び寄せが大きなテーマであり、後者は帰国の可能性の吟味が大きなテーマであるように思われる。特に就学者の場合、中国帰国者にあっては定住を前提にした将来への「不安」が比較的問題のようであり、日系ブラジル人・日系ペル-人にあってはライフコースの先行きの読めなさにまつわる「不安定」が比較的問題となっているようである。 今後は、アンケート調査の統計処理をまとめる作業を終えたあと、調査の過程で集まった日本語教育のユニークな実践を切り口に、外国人定住者への言語のケアをどう展開するかについて論じていきたい。
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