研究概要 |
本研究は、セルオートマトン(Cellular Automaton,以後CAと略記する)の局所状態遷移関数(以後単に“局所関数"という)と大域的挙動のクラスの間の対応関係を明らかにすることを目的とする。ここで、大域的挙動のクラスとは、S.Wolframによって与えられたCAの様相の時間変化の定性的分類のことであり、与えられたCAがどのクラスの時間変化を行なうかは初期様相によらずに定まるという事実より、任意のCAは4つのクラスのいずれか1つのみに属することになる。但し、このWolframの分類は経験的なものであり、厳密な数学的定義が与えられたものではない。 本研究の手法は、まず始めに考察の対象とするCAの集合を定め、その集合に属する各CAを計算機上で実行し、局所関数の特徴とそのCAの大域的挙動のクラスの間の対応関係について考察する。CAの挙動、即ち様相の時間変化を計算機上で実行して判断するのには1次元CAが都合が良いので、本研究では当面1次元CAに限定して考察することにした。 最初に考察すべきCAの集合として、線形CAを選んだ。線形CAでは、状態集合はZ_k(整数環の剰余環)とし、局所関数は近傍セルの状態の線形結合とする。上述した通り、Wolframの分類には数学的定義が与えられていないので、計算機実験の結果を踏まえて、各クラスの数学的定義を与えた。そしてその定義に基づいて、任意に与えられた1次元線形CAがどのクラスに属するかが、局所関数の線形結合係数のみによって正確に知ることができるという定理を導いた。また、各クラスに対するWolfram自身の特徴付けに曖昧な点があるため、その解釈を変えることにより、各クラスに対する別の定義を与えることができる。この第2の定義に基づいても、上記定理と同様の定理を導くことができた。なお、これらの定理の証明の過程で、広く受け入れられているCAの定義が不十分であることに気付いたため、CA自体の定義を根本的に見直し、精密化した。
|