山陽地域におけるアカマツ林の衰退を把握するため広島県東広島市の西条盆地において枯死域の毎木調査・年輪解析と夏期・冬期の気象観測・NOx濃度の鉛直プロファイルの計測を行った。盆地底付近に設定した200m^2の方形区内の樹木個体数は195本、そのうちアカマツは13本ですべて枯死していた。他の樹種は里山特有のアラカシ・シラカシ・サカキ・コミバツツジですべて生木であった。88個体から成長錐で年輪コアーを採取し、クロスデイテイングからアカマツの枯死年を推定したところ1980から衰退を始め、85年には枯死していた。逆にその後の常緑広葉樹種の年輪幅は増大傾向にあり、林冠層の枯死による光条件の改善が原因であると推察された。 一方、毎木調査区近傍で高度100mまでの気温・湿度の鉛直構造を調べると、地上80〜90m付近に接地逆転層が夕方〜朝にかけて出現し、その差は夏場で4℃、冬場では5℃と盆地底の気温が低かった。サーモグラフィーによって計測した山腹斜面の温度分布も同様の結果であった。湿度プロファイルはその逆位相であった。また、NOx濃度の鉛直プロファイルは、逆転層内部では24時間被爆量は40ppb近くに達していた。夜間の長波放射が卓越し逆転層強度が強まる静天静夜には大気の物理特性が逆転層の内部とその上層で変化するため、自動車などから排出されたNOxが盆地底に溜まっていると考えられる。時系列的には、調査地東広島市の学園都市開発・国道2号線のバイパス完成などによって近年その大気汚染物質の排出量が増加していると推察される。 しかしながら、こうした閉鎖地形の外部にはアカマツの健全域が多く残っていることから、今後は同様の調査・観測を盆地外部で行い、結果を比較する予定である。
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