近年の人発がん原因としての変異原性評価に、変異のタイプと場所といういわゆる変異スペクトル面からの評価が重要視されていることから、本研究では大腸菌のsupF遺伝子を標的とした新しい変異スペクトル解析用トランスジェニックマウス系の樹立を目的とした。今年度の研究成果は、二点に大別できる。1)これまでに樹立されている数種のトランスジェニックマウス系には変異標的遺伝子の選択法に偽陽性を誤選択するという問題がある。これらを解決するべく、本系では変異体の選択法に独自の工夫を凝らし、高感度で確実な変異標的遺伝子選択法を確立した。2)supF遺伝子を、市販のラムダファージベクターZAPIIに挿入し、哺乳類細胞に導入するためのコンストラクトを作成した。1)では、染色体DNAにNal抵抗性を示す変異gyrAを、さらにSm抵抗性を示す変異strAを導入した大腸菌TN41と、site-directed mutagenesisによりgyrAとstrAにアンバー変異を導入した、gyrAamとstrAamをもつプラスミドpOF105を作成した。TN41/pOF105はsupFを導入すると、プラスミド上のgyrAamとstrAamが共にサプレスされ、NalとSmに感受性を示したが、約3-5x10^<-7>の頻度で生じたNalとSm抵抗性コロニーの標的遺伝子supFをシーケンスした結果、すべてのNalとSm抵抗性細胞のsupF遺伝子に変異が確認できた。以上のことはこの選択法が効率よく確実に変異体のみを分離できる有効な方法であることを示している。2)ではsupF遺伝子を組み込んだラムダファージZAPIIsupFを作成した。この際、哺乳細胞内での転写鎖/非転写鎖での生じる変異の相違を検討するため、SV40のプロモーターに調節されるsupF遺伝子をsense/antisenseに、さらにマーカーとしてSV40のプロモーターをもつneo遺伝子を繋いだ。現在、マウスの受精卵にマイクロインジェクションし、従来の方法でトランスジェニックマウス系を作成すると同時に、ヒトのリンパ球細胞にもマイクロインジェクションし、トランスジェニックマウス系と併せて、哺乳類細胞系の樹立も試みている。樹立したトランスジェニックマウスの臓器や哺乳類細胞からDNAを回収し、パッケージングした場合を想定し、ZAPIIsupFをTN41/pOF105に溶原化した場合でも上述の選択法が有効であることはすでに確認できた。
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