放射線や活性酸素によってDNA中のチミンにはいくつかの種類のヒドロペルオキシドが産生する。ヒドロキシルラジカルがメチル基に反応して生じた5-ヒドロペルオキシドはさらに分解して、5-ヒドロキシメチルウラシルと5-フォルミルウラシルを生成する。放射線照射では、5-フォルミルウラシルの生成量はチミングリコールのそれとほとんど同程度であり、5-foUがチミンの主な酸化的損傷の一つであることを示している。では、5-フォルミルウラシルはそのような生物作用を示すのだろうか。放射線や活性酸素は多種多様なDNA損傷を生じるが、その個々の生物作用を知るためには、その損傷だけを含むオリゴヌクレオチドを合成して、in vitroでのDNA合成に与える影響を調べることが重要であろう。そこで、京大工学研究科の杉山博士らとの共同研究によって5-フォルミルウラシルを1カ所だけ含むオリゴヌクレオチド(22-mer)の化学合成を行った。これをin vitroでのDNA合成のテンプレートにし、5′末端を^<32>Pでラベルしたプライマーの伸張反応で5-フォルミルウラシルのDNA合成への影響について検討した。Klenow fragmentによるDNA合成は5-フォルミルウラシルの一つ手前で強く阻害されること、さらに反応を継続するとこの損傷を越えて合成が進行すること、テンプレート中の5-フォルミルウラシルの向かい側にはdAMPが優先的に挿入されるが、ほぼその1/3の割合でdCMPが入ることを見いだした。この結果は、5-フォルミルウラシルがTからGへのトランスバ-ジョンを引き起こすことを示唆している。
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