本研究は、Kup70及びKup80遺伝子に変異を導入したES細胞を用いて、Ku遺伝子欠損マウス系統、すなわち電離放射線感受性修復欠損マウス系統を樹立することを目的に研究を進めている。 今年度までに、実験モデルマウス作製のための基礎情報を得るための実験を行った。最初に公表されているマウスKup70及びKup80の塩基配列をもとにプライマーを設計し、マウス神経芽細胞腫由来のcDNAライブラリーよりPCR法によって両遺伝子のcDNAを得た。次いでマウスでのKup70及びKup80のmRNAのサイズ及び発現様式を知るために、脳、心臓、肺、腎臓を含む7種類の組織で、それらをプローブとしてノーザンブロット法により調べた。その結果、両遺伝子は調べたすべての組織で発現していることが明らかになった。Kup70は2.4kbの転写物を、Kup80は2.6kbの転写物を発現していた。また、脳ではKup80の2.9kbの転写物も検出された。ところで計画している変異マウス作製法では、ES細胞での相同組み換えの効率が重要であるが、そのためには両遺伝子に高い相同性をもつ塩基配列や偽遺伝子の存在の有無を実験を始める前に知る必要がある。これらの理由からFISH法と遺伝的連鎖マッピング法を用いて、マウスゲノムにおけるKup70及びKup80遺伝子座領域の同定を行った。その結果、Kup70は、マウス15番染色体E領域のマイクロサテライトマーカーD15Mit1より0.7cMテロメア-側に、Kup80は、マウス1番染色体C4領域のD1Mit46より0.7cMセントロメア-側に存在することが判明した。さらに、後者には、偽遺伝子が存在することが明らかになった。これらの情報は、今後の変異マウス作成において重要な知見となる。現在、マウス129系統由来のES(D3)細胞のゲノミックDNAライブラリーより両遺伝子のゲノム断片のクローニングを行い、それぞれの遺伝子について異なったエクソンにneo遺伝子を挿入したターゲッティングベクターを作製するなど、研究は着実に進行している。
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