一酸化窒素(NO)は血管内皮細胞由来血管弛緩因子の本体と同定されて以来、生体内での挙動が注目されている物質である。NOは合成酵素(Nitric Oxide Synthase;NOS)の発現・活性化により生理作用が制御されている。これらの酵素を選択的に活性化または阻害することは、NOのセカンドメッセンジャーとしての役割の解明に大きな意義を持つ。そこでNOSに対するアルギニンの活性立体配座を明らかにすることにより、阻害剤の選択性や活性強度を向上させることを目指した。 まず、アルギニンの立体配座を三員環で固定した類縁体の合成を行った。合成原料としては、三員環固体グルタミン酸[2-(2-carboxycyclopropyl)glycine]の中間体を用い、ビニルグリシノール誘導体へのジアゾアセトアミドの分子内付加反応にて三員環を導入した。従来の三員環構築反応では、触媒として酢酸パラジウムを用いていたが、収率が低い(40-60%)という問題点があったため触媒を検討した結果、暈高いリガンドをもつロジウム触媒が高収率(70-95%)で目的物を与えることがわかった。しかも、主生成物はパラジウム触媒の場合と相補的(エンド選択的)であった。これは、遷移状態においてパラジウム触媒では金属と二重結合の配位がおこるが、ロジウム触媒では配位がおこらず、むしろ暈高いリガンドとの間に立体反発が働いたためと思われる。得られた環化付加物各異性体のカルボン酸を還元してアルコールにした後、アジド基を導入し、これを還元してアミンとした。これにBoc基で保護したS-メチルイソチオウレアを作用させてグアニジノ基に変換した。最後にα-位の酸化と脱保護を行い目的物を得た。これらのアルギニン誘導体の活性は現在検討中である。
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