1.癌細胞におけるフコース転移酵素(Fuc T)の抑制 シアリル・ルイスXの生合成に関与する酵素としてFuc T III、IV、V、VI及びVIIの5種類が知られている。これらのcDNAの共通配列に対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドや、それぞれに特異的なアンチセンス・オリゴヌクレオチドを作製し、各種の培養細胞に加え、抗シアリル・ルイスX抗体を用いたフローサイトメトリーによって解析したところ、シアリル・ルイスXの発現には有為な抑制は見られなかった。アンチセンスの添加条件等についてさらに検討中である。 一方、Fuc T IIIを発現している癌細胞にポリシアル酸転移酵素(PST)cDNAを導入し安定変異株を得た。糖鎖構造解析により、この変異株では、シアリル・ルイスXき発現量が抑制されていることが明らかになった。その抑制機序については明らかではないが、ルイスX構造の先にポリシアル酸が形成された構造も存在していたことから、単純な基質の奪い合いによる結果とは言えない。今後はFuc T IIIとPSTのどちらが先にポリラクトサミンに作用するのかを明らかにする必要がある。 2.細胞接着への影響 E-セレクチンをコートしたディッシュに対する上記PST導入安定変異株の接着能を検討したところ、親株に比べて、有意に接着能が減少していた。この結果が、シアリル・ルイスXの発現量の抑制そのものによるのか、ポリシアル酸の発現による二次的効果であるのかについて、現在検討中である。
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