細胞膜上に存在するスフィンゴ糖脂質(糖脂質)は、300種以上の分子種から成る一群の物質であり、その糖鎖部分の多様性を介して様々な現象に関係していると推定されている。しかしながら、これら糖脂質の生物学的機能は未だ殆ど明かにされていない。 私は、変異原性物質によって作成された、糖脂質を全く持たないメラノーマ細胞株の中にグルコシルセラミド合成酵素(GlcT-1)の欠損株を見いだしている。今回、私はこの変異を遺伝子相補する事により、すべての糖脂質の発現を制御するヒトのGlcT-1のcDNAクローニングに成功した。このcDNAは394アミノ酸から成る新規のタンパク質をコードしていることがあきらかになった。コンピュータ解析の結果、タンパク質は、N末端にシグナル-アンカー配列を持ち他の殆どの部分が細胞質側に存在するタイプIII型の膜タンパク質であることが示唆された。又、5'側の非翻訳領域にユニークな、G+Cに富んだ配列が存在した。 この遺伝子を用いれば理論的には、あらゆる種類の細胞又は、動物個体から糖脂質を欠損させることができる。これらの細胞及び動物は、糖脂質の機能解析の為の強力な道具になると考えられる。そこで更に私はジーンターゲッティングを用いた動物個体レベルでの糖脂質機能解析を目指してマウスのcDNA及び遺伝子のクローニングを行なった。マウスの酵素は、アミノ酸レベルでヒトの酵素と98%の相同性を有していた。遺伝子構造については現在解析中である。
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