細胞における膜融合過程の分子メカニズムの解明は重要な課題である。しかし、違う膜同士の脂質分子がどのような過程を経て、お互いに混じり合い融合が成立するのかに関しては現在のところ不明な部分が多い。本研究では、ホスホリパーゼCによる膜融合過程について考察するために、脂質混合系より成るモデル系の構造の研究を行った。ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)にジパルミトイルグリセロール(DPG)が50mol%程度含まれるとゲル-液晶相転移温度以上で、立方相(逆ミセル構造)を形成することをX線回折より見出した。さらに熱測定およびX線回折の研究により、DPPC・DPG系において少量のDPGはDPPCと複合体を形成し、その複合体はゲル相および液晶相のDPPCからも相分離すること以前に明らかにしている。これらから、ホスホリパーゼCの作用によって生じたDPGは膜内で局所的に存在し、その部分が逆ミセル構造になり膜融合を起ると推論出来る。さらに、X線回折・熱量同時測定により、DPPC・DPG系にスフィンゴミエリンを添加すると立方相を形成が阻害されることを見出した。また、DPPC・DPG系の構造と熱挙動は、熱履歴に敏感であった。この詳細をさらに研究するために、まず、DPPCのみの系における熱履歴による構造の変化を再検討を行った。その結果、この構造の変化過程は、古典的な結晶生長理論で説明出来ることを明らかにした。
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