研究概要 |
蛋白質試料を13C,15Nで標識し、3重共鳴法により分子量約2万までの蛋白質の構造を決定することができるが、分子量が大きくなるに従い、信号の減衰が速くなり、感度と分解能が低下する。特に13Cは13C-1Hの大きな双極子間相互作用により減衰が速い。本研究でこれらの問題を乗り越えより大きな蛋白質に有効な方法を開発した。安定同位体13C,15Nに加え、1Hα以外の1Hを2Hに置き換えた試料を作る。減衰の遅い13C-1Hで作られる2量子状態を用いて、13Cαの信号を得た。これにより、高分解能に13Cα-1Hα2次元スペクトルを得ることに成功した。アミノ酸残基数が多い場合、それらの13Cα-1Hα信号を1つ1つ分離して観測するために高い分解能が要求される。さらに、13Cαと近く原子核とのスピン結合相互作用を検出する事ができる。13C-1H間の2量子状態は減衰が遅いので、スピン結合を通して、減衰で失うこと無しに磁化を隣の原子核に移すことができる。これにより高感度の3重共鳴法を組み立てることができる。13Cαから残基内15N及び次の残基の15Nへの結合を検出するHACAN3次元NMR法、残基内の13COとの結合を与えるHACACO法、前の残基の13COとの結合を与えるHACA(N)CO法、さらに残基内13Cβとの結合を与えるHACACB法を開発した。これらによって、蛋白質分子中ペプチド主鎖を順にたどることができ、アミノ酸配列とくらべることによって、主鎖原子核からの信号の帰属を得ることができる。この方法は水と交換するアミド水素を使わないので、アルカリ性や高温でアミド水素が交換のために観測できなくなる条件での測定が可能であることも特筆すべき特長である。
|