タンパク質モーターはATPの化学エネルギーを運動(力学エネルギー)に変換する。ATP加水分解に伴う構造変化が運動の原動力になるとするモデルではモーター分子内にバネ的要素を持つことが示唆されている。ミオシンについては以前にバネは分子の頭部に存在することが示されている。頭部のどの部位がバネであるのかを明らかにすれば上記のモデルの真偽を検証できる。 ミオシン頭部の変性は部位特異的に起こる。本研究では部位特異的変性をさせた筋原線維のバネ的性質を調べることによりバネ的性質を担う構造を解明することを目指した。本年度ではミオシン頭部の特定部位のみを変性させる条件の確立を行った。 変性の状態は試料をトリプシン限定消化後SDS-PAGEを行うことでモニターした。ミオシン頭部は25kDa、50kDaと20kDaの3つのドメインから成り、トリプシンにより3つのフラグメントに切断される。変性した部分はトリプシンにより過剰の切断を受けるので変性したドメインに相当するフラグメントが消失する。 まず50kDaドメインは10%程度のメタノール中または35℃の穏和な条件で特異的に変性するという以前の報告を確認した。それに加えて25kDaドメインは0.1Mという低濃度の尿素により特異的に変性することを見い出した。3つのうちの2つのドメインの特異的変性が可能になったので3つのドメインのどこにバネがあるのかを特定できるようになった。 今後は上記の変性条件で筋原線維中のミオシン頭部が特異的に変性することを確認した後、変性処理を施した筋原線維のバネ的性質を生理学的手法により測定する予定である。
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