空間的知覚情報が海馬神経系において統合され認知マップを生成するメカニズムを行動レベルから明らかにした。具体的には、ラットを用い、その行動可能空間が拡大する過程における空間認知マップ生成プロセスを、運動パターン変化を通して解析した。空間ナビゲーション課題として、最初に迷路空間1を学習させ、その後、新しい迷路空間2を接続して行動可能領域を拡大した。そして、このような空間拡大の前後においてスタートからゴールまでの移動距離を計測した。その結果、各試行ごとの移動距離変化のうち、新たな空間2を追加した後、オフセット成分では、学習済みの空間1の移動距離が一過的に増加し、その後両空間とも揃って減少した。また振動成分では、移動距離の増加減少リズムが出現した。さらに、その移動距離の増加、減少区間ごとに行動速度および角速度のゆらぎを評価すると、増加区間ではゆらぎが大きく減少区間では小さかった。これらの結果をまとめると、1)空間認知マップは部分空間ごとに独立に形成されるのではなく、既存マップと新たな空間知覚情報を統合する形で、空間全体に関するマップとして発展的に生成されること、さらに2)仮説的マップ生成とそれに基づく空間解釈と呼び得る、意味的に異なるプロセスが経時的かつ循環的に進行し、空間認識を発展的に達成されること、の2点が示唆された。
|