コフィリンは真核生物全般に存在する低分子量アクチン結合タンパク質で、細胞に種々のストレスを与えた時に形成されるアクチン・コフィリン・ロッドの主要な構成成分である。近年、細胞運動や細胞質分裂、筋発生にコフィリンが関与しているという証拠が相次いで報告された一方、コフィリンのいかなる活性がその生理的機能を果たすうえで必要なのかと云う点に関しては明らかではなかった。そこで今年度は、遺伝子操作が容易な出芽酵母(S.cerevisiae)を材料として、コフィリンの多様な生化学的活性のうち、細胞の生存に必要不可欠な活性を解析した。 S.cerevisiaeでは、コフィリンをコードするCOF1遺伝子は必須遺伝子であるが、哺乳類のコフィリンを多コピープラスミドで大量発現させることによりCOF1欠損株を救済することができる。今回、多様な活性の一部のみを欠如したブタ・コフィリンの変異体を3種類作製することに成功し、それら変異体がCOF1欠損を相補する能力を検定した。その結果、F-アクチンには結合するが、アクチン脱重合活性が極度に低下した2つの変異体は25℃では相補できるが、37℃では相補不能だった。一方、アクチン脱重合活性は強いのだが、F-アクチンに安定には結合しない1つの変異体はCOF1欠損を全く相補できなかった。従って、コフィリンが酵母の生存を維持するには、アクチン脱重合活性のみでは不十分であり、F-アクチン結合活性も重要であることが判明した。更に、25℃では相補可能で37℃では不能であった変異体コフィリンを持つ株(温度感受性株)と正常なブタ・コフィリンを発現する株との間で、熱ショック、高塩濃度、高浸透圧、栄養源飢餓等、種々のストレスに対する感受性を比較した。その結果、温度感受性株は炭素源飢餓ストレスに対して特異的に感受性であった。従って、コフィリンの機能がストレス全般に対してではないが、ある特定のストレスに対する耐性に必要であることも判明した。本研究は、コフィリンが細胞のストレス耐性に機能していることを直接明らかにした最初の研究である。
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