嗅球は終脳の吻側端に位置する領域である。発生時に嗅球の僧帽細胞の軸索は、終脳の表層を選択的に伸長し嗅索を形成する。我々はこれまでの研究で、この嗅索形成を忠実に再現できるマウス終脳の組織培養系を確立し、予定嗅索領域には嗅索形成を引き起こす何らかの因子が局在している可能性を示唆してきた。本年度の研究では、予定嗅索領域に特異的に結合するモノクローナル抗体の作製を行い、非常に興味深い結合パターンを示すモノクローナル抗体31C12を得た。この31C12抗体の抗原(31C12抗原)は嗅索形成のまだ始まっていない胎生11日目から、終脳の予定嗅索領域に存在する一群の神経細胞に発現する。嗅索形成後もしばらくは僧坊細胞の軸索束に接する梨状葉第1層の一部の細胞で発現が認められるが、発生が進むにつれてその発現は弱まり、生後は消失する。この形成中の嗅索に沿うような分布パターンは、31C12抗原分子の嗅索形成への関与を示唆する。また、31C12抗原は細胞内でもゴルジ装置と思われる部分に局在しており、この分子が細胞外に分泌あるいは細胞膜に組み込まれて、伸長中の僧帽細胞の軸索に作用している可能性が考えられる。このような発現パターンを示す分子はこれまでに全く報告されておらず、この31C12抗原分子の発現パターンをさらに詳細に解析し、その構造を決定することは、嗅索形成を理解する上で極めて重要であると考えられる。
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